2018年2月3日(土)、福岡市科学館のサイエンスホールにて「サイエンスアゴラin福岡~このロボットがすごい!~」が開催された。もともとお台場の日本科学未来館で行われていた、科学技術振興機構が主催する「サイエンスアゴラ」と、日本ロボット学会が開催していた「このロボットがすごい」とが合体した形で、福岡で初開催というすばらしいタイミングにスタッフとして関わることができた。
参照) サイエンスアゴラn福岡~このロボットがすごい!~(福岡市科学館HP)
日本のロボットの権威!浅田先生の話がおもしろい
日本ロボット学会の副会長でもあり、まだAIどころかインターネットが世の中に普及する前から「ロボット」の研究をしてきた大阪大学の浅田稔先生が今回の基調講演を務め、タイトルは「AI×ロボットの未来社会はどうなる?」。
画像引用:大阪大学工学部応用理工学科 浅田稔教授の紹介ページより
10~20年後にAI×ロボットが日本の労働人口の約49%の仕事を代替可能にする、というような野村総研とオックスフォード大学の研究による推計結果が発表された2015年以降、「AIやロボットが、社会をどのように変えていくのか」に興味の触手がビビっと立ち、追いかけてきた。大学の講義や中学・高校生へ「未来の仕事は、今はまだ存在しない。今ある仕事は、将来人間がする必要がなくなっているものもたくさんあるだろう」って話をしたりする。
でも、どんなに記事をたくさん読んでも、AIやロボットに関する動画を見ても、深いところまで理解できていなかったことに浅田先生の話を聞いて思った。
AIやロボットは人間の赤ちゃんにまだ敵わない
AIやロボットは、“定められた条件”がある中ではすでに人間の能力(脳力)をはるかに凌駕する。例えば将棋。人間が数年、数十年かけて達成できるような「将棋を打つ経験値」を、AIは深層学習で短い時間で数万~数千万倍の経験ができ、パターンを導き出して学習していく。さらに深層学習では、人間が到底思いつかないような「手」も経験するため、人間vs AI だとびっくりするような「手」を打ってきたりすることもできるらしい。
でも「コミュニケーション」や、その環境・空間・雰囲気(人と人の間に流れてる空気みたいなもの)を感じて、自分がどうふるまえば良いか?などは、まだまだAIやロボットにはできない。深層学習でも処理がものすごく複雑でどうやら難易度が高すぎるらしい。
浅田先生は日本のロボット界の権威でありながら、今回の基調講演の自己紹介で「赤ちゃん」の学会などにも所属していると語り、その理由は「赤ちゃんが生前から生後、どのように学んでいくか」がAI×ロボットの研究にかかせないから、と核心のようなことを話していた。
手の関節が人間と同じヒト型ロボットで、手を思ったように動かすためにはそれぞれの関節を何度曲げたり動かしたりし、どの程度の力で動かせばできるのか?という「感覚的なスキル」は、AI×ロボットが学ぶのは可能だけど難易度はやはり非常に高いらしい。でも赤ちゃんは生後数カ月で身につけていく。赤ちゃんは生前、母親のおなかの中ですでに体を動かして五感を感じはじめ、生後はそれぞれの五感を繋げて、リンクさせて、あらゆる情動を覚えていくらしい。さらに、コミュニケーションは体を使ってあらゆる五感を働かせて発達させていく。赤ちゃんはそれを生後1年あまりでやってのける。
そう、AIやロボットはこの体を使い五感を働かせながら「学習していく」というスタイルを取れない。どれだけ深層学習ができようとも、この赤ちゃんの体を使って学び実践していくスタイルにはまだまだ敵わないらしい。おもしろい!これって人間が人間であるための強みに通じる、と思った。
赤ちゃんでもできる推論
我々人間は「リンゴは赤色だ」を覚えると、「赤色はリンゴでもある」と推論できる。AならばBであれば、BならばAである(すべてがそうじゃないけど)、と推論を立てることができる。でもこれって、チンパンジーやAIにはできないんだそうな!AならばBと、BならばAと、2つを教えないと繋げて考えられないらしい。でも我々人間はおいうか赤ちゃんは生後数カ月でこれを習得するらしい。人間はいろんなことを学習していく中で、推論を立て、それを証明していくかのように人間は学べる、体を使いながら。さらにこれを人と人のコミュニケーションに応用させ、いろんな高度な会話を成り立たせていく。
これ、我が子たちをしっかり観察していて、生後1年未満のときに何度も感じた衝撃の記憶を呼び覚ましました。ホント、赤ちゃんってすごい。
浅田先生が基調講演の中と、その後の質疑応答や夜の打ち上げのときに話していたのを聞いていて、「AIやロボットの進化スピードは速いけど、空気を読んで、その場その場で適切なコミュニケーションをしていく、みたいなことは当分先の話になるんじゃないか。まだまだ時間がかかる」と言っていた。理由は明確で、AIが体を使う、いわゆるAI×ロボットの状態で自己学習し続けないといけないのに、今のロボットはまだまだ人間の神経・感覚を持つにはほど遠く、そしてコストがかかりまくる、から。
コミュニケーションやリーダーシップを適切に使える人間になろう!
今回、この「サイエンスアゴラin福岡~このロボットがすごい!~」でスタッフとして関わることもでき、当日は異分野の研究者たちがクロストークする場面や、高校生が登壇して浅田先生とトークする場面もあり、多くのインプットがあったけども、まとめるとコレにいきついた。これからまだまだAIやロボットは進化し続ける。多くの「条件がある環境」では人間はどんどんやれる仕事はなくなっていく。
けれども、人と人との感情のやりとりや空気・雰囲気の流れみたいなものを的確に感じ取り、どのように振る舞ったりコミュニケーションを取れば、人の心や行動の変化を促し、組織をよりよく導けるか?のリーダーシップを身につけるか。これこそが、まだまだ人間にしかできない「価値」として、これからもっと重要視されていくと思う。
ファシリテーションって、もっと価値が高まる職業になりそうだ!
<参考記事>