社会の動き

人材不足が待ったなし!地方の中小企業ができること

2023年5月にコロナ解禁!となって、人流がコロナ前の100%!とは言わずとも、数字の上では多くの業界が70~90%くらいに回復している模様。そんな中、2023年から一気に出てきたキーワードが「人材不足」。九州内の各地で繋がっている方々の話を聞いたり、経営者から相談されたりする中で、今後10~20年のメガトレンドキーワードが「人材不足」と思っているので、このテーマについて考えてみる。

人材不足は止まらないし、より深刻になる

国勢調査では2015年調査から日本の総人口が下降を始めているものの、こと人材については「労働人口」を見ないといけない。正確には生産年齢人口(15~64歳)の統計を見ていくと、1996年あたりにピークを迎え下り坂に入り、もうまもなく30年経とうとしている。ピーク時からはすでに1,000万人以上減少し、地方ではとっくに「採用したいけど若者がいない」と言われていた。

そんな中、この20年で我が国も労働可能な人口の減少に伴い、様々な制度変更や政策を打ち出したのが

・元気な高齢者にはまだまだ働いてもらおう(定年延長など)

・専業主婦などの女性に働いてもらおう(女性活躍など)

これにより、ここ20年は労働市場における人口は減少するどころか、むしろ少し増えた時期もあった。ところがである。この期間の日本の労働市場に出てきた女性の増加率は、世界的に見てもトップクラスだし、多くの元気な高齢者も働きに出るようになった。眠っている労働人口は、ある程度起こしきったとも言える。

出典:「労働供給制約社会がやってくる」リクルートワークス研究所より

ということで結論、日本では労働可能な人口の絶対数がすごい勢いで減少していく中で、打つ手はほとんど残されていない。2023年にリクルートワークス研究所が出したレポート「労働供給制約社会がやってくる」(PDF)を見ると、凄まじい勢いで「人手不足」が全産業に襲い掛かるのがわかる。2023年は12.8万人の不足が、2024年の今年で倍の25.1万人の不足。2030年で341.5万人の不足。

いったいどうするのこれ?

現時点で「人材不足が深刻で~」と言ってる業界や地域、「なかなか採用が上手くいかなくて~」と言ってる大中小の企業、もう抜本的に何かを変えないと滅びる可能性が高いとも言えるのでは。

今までのやり方から脱皮してDX化と効率化が必須

世界的に見ても、情報産業の勃興もあり「都市部」に人口が流れていく現象が起きており、日本でも地方から都市への流れはコロナ禍を経ても変わらない、むしろ加速している。それにより、地方の中小企業は人材難に陥り採用の難易度は高い状態が発生。そして今後は、地方の大企業もその難易度は上がり、さらに地方自治体などの公務員も人手不足が次々に起こる。

この悪循環に入ったら、地方では様々なことが連鎖して起こるため、新たに若い人を採用してもすぐに離職されるリスクは改善されない。ではどんな組織が若者が寄り付かなく、かつ採用してもすぐに逃げられるのか?

一言で言うと「人に投資しない」「働く環境に投資しない」組織。

若い人ほどスマホで様々な情報をキャッチできるし、友人知人からも様々な情報が入ってくる。「給料が良い」業界や会社の情報も入ってくる。そしてそれは成長産業や局所的に「需要が大きいため人手不足」になっている地域の情報も入ってくる。

例えば北海道のニセコはインバウンド需要で牛丼1杯が2,000円するそうだが、そこで働くサービス業の時給も東京より高いという。システムエンジニアも世界中で需要があり、ここ福岡にいても多くの会社が採用を活発にしている職種だ。そうなると年収はどんどん上がっていて、住む場所を移動できる若い人ほど、年収を上げられる都市へ移動してしまう。

そして地方では経営者も高齢だったり、若い人も少なかったり、何より新しい技術を持った若手も幹部候補も入ってこないから、「働き方」がアップデートされていない、いわゆる投資されていない。人権意識も昭和のままで、男尊女卑はもちろん、外国人労働者へも差別的対応が発生したりする。そう、社会情勢へのアンテナも低く、人に投資する意識も低い傾向がある。

じゃあ人気がなく、特出した産業も乏しい地方・企業はどうしたら良いのか?

この悪循環から抜け出すには、例え売上が減っても1人当たりの生産性を爆増させるしかない。それが「働き方」における様々なツールへの投資、いわゆるDX化だ。

仕事柄、グローバルメガ外資企業から地方小企業、そして地方公共団体まで、多様な業界、多様なエリアの、多様なサイズの企業とお仕事したりコミュニケーションを取ることがあり、その「時間あたりの生産性意識」の差を凄まじく感じる。

ミーティング1つ取っても「やり方」がまるで違う。「なぜこの時代に、この内容のミーティングに、そんなに何人も参加してるの?」「このミーティングにそんなに人件費(時間)かけておきながら、アウトプットがそんなに曖昧でいいの?」そんな大企業も福岡市内でもざらにある。

社員同士のコミュニケーション、部署の中でのコミュニケーション、会社と社員のコミュニケーション、さらにはプロジェクトマネジメントや情報共有、社員への研修方法なども、効果・効率を考えて「人材というリソースの配置・振り分け」をマネジメントして仕事を進められる組織に向かうには、DX化を含めて「働き方」をアップデートするしかない。

外部のプロ人材活用という近道

働き方も、情報共有も、社内コミュニケーションも会議のやり方も、そしてDX化も、過去のやり方をいろいろ捨てて生産性向上に舵を切るには、「働く環境が激変する」ため、これまでの環境に最適化していた社員の反発も考えられる。しかしそこに慮ってばかりいると滅びの道になるリスクがある。それを経営者・経営陣のみのリーダーシップで突破するには難易度が高すぎる。

かと言って経営コンサル企業に依頼すると非常に高額だったり、現場ごとに1つ1つDX関連サービス企業を導入させても組織全体のオペレーションまで見れなかったりする。

そこで1つ提案したいのが「外部のプロ人材の活用」。とは言え、これもまた「過去にないやり方」なので社内からの反発も考えられる。経営者・経営陣がいきなり外部の人を連れてきて、しかもフルタイムではない人材をいきなり現場に押し付けて「後はよろしく!」をやってしまうと、だいたい悲惨なことになる。「仕事のパフォーマンスを上げる」には、コミュニケーションの前に信頼関係が欠かせないので、これの構築ができていないまま、外部人材を走っている現場に当てがっても、すぐに剥がれ落ちる。

まず、ここで言う外部人材は「経営者・経営陣の伴走者」という位置づけが望ましいと思っている。経営者はこれまでの業界・仕事・社内の状況を見てきて、組織の中では一番視界が広い(広くないといけない)ポジションにいる。ここに、既存のオペレーションや社内組織の体制をダイナミックに変える視点を提供し、何から手を打つか、どこから手を打つかをアドバイス・コーチしながら、ときに現場のスタッフともコミュニケーションを取りながら、「一緒に組織をよくしていこう」とできる人材が理想的。

どうしても反発が生まれやすい「経営陣」と「社員」の二極に、外部アドバイザー・コーチとしての第三極を設けることで、経営陣が言いにくいことも現場に柔らかく落とし込んでくれたりできる。経営者でもない「外の目線、だけど中のことも理解している」というコミュニケーションは、社内スタッフも素直に受け止めやすくなる。(とは言え、外部であることには変わりないので、関係性構築はやはり必須)

それでもやらないといけないのがコミュニケーションの可視化

外部人材を活用するにしろ、DXするにしろ、生産性向上に避けては通れないことがある。それは「暗黙知」をなるべく無くすこと。多くの業界、多くの会社で、長く同じポジションや役割で仕事をしている人がいると、必ず「その人にしかわからない暗黙知」がどんどん増えていく。その人がある日パッタリいなくなると、途端に仕事ができないリスクが上がるうえに、暗黙知が増えると不正やコンプラ違反の温床にもなりやすい。

そのために行わないといけないのが「コミュニケーションの可視化・言語化」だ。例えば極端に比較すると、経営者から末端の新入社員まで、誰がどこでどんな指示をしたのかをすべてチャットツールで行い可視化している組織と、現場現場で常に1対1の口頭で指示している組織と、どちらが「情報共有」のコストが低いかは一目瞭然だ。

しかも、普段からちょっとしたことでも相談・報告できるような関係性を、この「可視化・言語化」の文化ととも作っておくと、現場の社員が発見したちょっとした「違和感」も報告に上がってくる。それがミスや不正や事故を未然に防ぐことに繋がる。さらには次にそれが起きないようにするには、組織としてどうしたら良いか?の目線でみんなが意見を言える。生産性どころか、エンゲージメントは高く、そんな組織は離職率も低い傾向にある。もちろん、採用コストも下がってくるだろう。

コミュニケーションが可視化・言語化が進んでいる組織は、「課題の発見」が容易になる。そして「現在地がどこ」なのかも共有しやすい。次の目標やアクションも把握でき、自身の役割も認知しやすい。つまり、内部だろうが外部だろうが、仕事がめちゃくちゃしやすくなり、生産性が上がる。

一見、コミュニケーションを可視化・言語化を進めるというと、「コミュニケーションコスト」が高くつきそう、と思われるが逆で、ちょっとした相談がしやすく、会議も活発に意見が出ると、ミスや事故の発生率を下げる効果もあり、離職率も下がり、イノベーションも起きやすくなり、「コミュニケーションコスト」は簡単にペイできるため安くつく。

経営者と関心のある若手から勉強会を

ここまで地方中小企業の人材不足を突破するために、どんな手を打てば良いかをつらつらと書いてきたが、これらの話はここ福岡県内の5社ほどの話を聞いたり、実際に外部人材として支援したり、取材したりした経験をもとに自分なり整理したもの。

とは言え、いきなり外部人材を上手く使いこなせる組織になれるわけもないし、経営者・経営陣もこれまでやってきた自分たちの「やり方」をある意味捨てて、新しく試したりしないといけないため、失敗したくないしなかなか踏み出せないことだろう。

そこでとある企業がDX化を進めた「やり方」を紹介する。経営者として「人材不足がより深刻になる事実」とともに、会社の未来に向けて「生産性向上に向けたDX化」の話を社内で投げかけてみて、「一緒に実践しながら勉強していきたい社員」を社内募集する。そして定期的に勉強会を開き、自分たちでチャットツールなどでコミュニケーションを行い、少しずつ社内実装に向けて試行錯誤をしていく。

その積み重ねで社内で人材が育ち、今では全ての部門にDX化の意識が浸透、社外への広報も上手くいき、結果的に良い採用にも繋がっている。

小さく初めて成功事例を重ね、その事例を社内に反映しつつ仲間を増やし、じわじわと浸透させる。ある程度の理解・納得が起きそうなレベルまで来たとき、一気に舵を切る。それが一番リスクが少ないのではないか、と思っている。

人手不足は今後さらに深刻になる。最もリスクが高いのは、「何も行動を起こさないこと」。今後数年で答え合わせになるのではないかと思う。



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