地域・まちづくり

人口減少時代は「自治体の人口規模」ごとにまちづくり戦略がある

2025年1月の後半は講演やファシリテーターなどの登壇ラッシュ。その1つに、鹿児島県日置市での講演『ひおきの未来への突破口!?~人口減少に向けたまちづくり勉強会~』がありました。もう1つが福岡にある外資コンサル会社アクセンチュア主催のアクセンチュアシェアーズという勉強会で、テーマが『ハコものからコミュニティづくりへ~自治体が取り組む「住民参加のまちづくり」最前線』でした。

この2つの登壇の共通するテーマが「地方自治体におけるまちづくり」でしたので、主催者や一緒に登壇した方々との事前ミーティングから本番までのコミュニケーションの中で、いろいろと感じて深められたこともありましたので、言語化してみたいと思います。

人口5万人規模の鹿児島県日置市のまちづくり

もともと、男女共同参画の文脈からSDGsのジェンダーギャップ解消を地方のまちづくりの重要課題として、鹿児島県内で何度か講演していたのが好評だったようで、日置市の方もそれに参加していて「声をかけていただいた」ようです。なので、当初は「男女共同参画の文脈」によるまちづくりの講演でした。

地方で呼ばれる講演や、まちづくり、地域づくり、男女共同参画、SDGs、などで登壇するときに必ず話すのが「地方から若者が出て行く、その男女比率」について。地方から多くの若者が都会へと流出していくのですが、その男女比を見ると女性の方が多いです。九州各地から若者を集める福岡都市圏は、「若い女性が多い!」と言われてきたのは九州各地から女性が福岡に集まっていた所以であるのですが。実はあまり知られていませんが、この福岡都市圏でも「福岡から東京圏へ流出する若者は女性の方が多い」のです。

理由は単純明快、男性の村社会文化だと「自身の活躍の機会がない」「アイデンティティが削られる」と、女性たちが感じ取っているから。知り合いに、仕事もできて、自身のキャリアや自己実現を求めて東京へ渡った女性は何人もいます。

そして今回、相談いただいた日置市の担当職員の方から「男女共同参画なんですけど、なるべく男性にも来て欲しいんです」というお話をいただき、冒頭の講演タイトル『ひおきの未来への突破口!?~人口減少に向けたまちづくり勉強会~』を提案させていただきました。

その結果、男性が約7割!参加年代も30~70代まで幅広い50名ほどの方に参加いただきました。日置市長も知り合いとは言え、一般参加枠で参加され、議員さんから市役所の総合計画の課長さん、議員さん、自治会の方々など、多くの「意思決定層」の男性方に参加いただけました。

タイトルには「突破口」とありますので、結論、突破口は「多様な住民同士、まちづくりについて対話しまくりましょう」という提案でした。もちろん、ジェンダーギャップを解消しないことには「多様性」が失われ、ますます若者・女性がいなくなるから絶滅しますよー!と言いつつ。持ち時間120分の中で、対話ワークも盛り込み、それがまた刺激になった方も多かったようです。

自治体の人口規模によってまちづくりは違う

もう1つのアクセンチュアでの登壇の『ハコものからコミュニティづくりへ~自治体が取り組む「住民参加のまちづくり」最前線』では、メイン話者は日本全国に蔦屋図書館を展開しているCCCの高橋さん。事前ミーティングで高橋さん含めてアクセンチュアの自治体担当の方(アクセンチュアは政府含めて多くの自治体がクライアント)と話をしていて、1つ疑問を投げかけました。

「ここで言う、自治体が取り組む、の自治体は規模によって取り組みが全然違いますよね?どれくらいの規模感の話をしていますか?」と。

すると、CCCでは「人口10~15万人規模の自治体で蔦屋図書館を展開するようにしている」と話されていて、本番では九州内での近年新設した蔦屋図書館の事例をお話されていました。その自治体は、宮崎県の延岡市(人口約11万人)と、鹿児島県の薩摩川内市(人口約9万人)。

もともと蔦屋図書館は佐賀県武雄市(できた当時は人口約5万人)が最初で、そのインパクトは大きく他県からや今ではインバウンドの集客も見込める観光施設としても貢献しています。ですが図書館としての本質はそこではなく、地域住民の知識・情報のインプットできる場であり、それをもとにした交流拠点でもあります。

CCCはその後、地方活性化の1つの事業として「蔦屋図書館」をブランディングしていきましたが、人口150万人以上の大都市になると、自治体とともに蔦屋図書館にしなくても、蔦屋書店という独自のブランドで十分に採算取れます。しかし、人口規模が小さく書店単体では難しい地方自治体で、「蔦屋図書館」にしたら採算も含めてインパクトが出せる人口規模として、10~15万人と絞っているのだろうなと。

このアクセンチュアシェアーズの事前ミーティングでのやりとりもあり、日置市の人口5万人規模のまちづくり、そして自分が現在関わっている福岡県大牟田市(人口約11万人)のまちづくりもあり、自分の中でいろんな仮説が出てきました。

これからの格差が出る人口減少時代のまちづくり

1945年の終戦後、日本は団塊の世代を生み出し「1.総人口」増加と「2.生産年齢人口」の増加という、経済成長が著しい時代を過ごします。この1と2の双方の増加は1995年あたりまで右肩上がり。ところが1995年から2025年までの30年間、「総人口は少しだけ増えて少しだけ減る」時期だったものの、2の「生産年齢人口」は1,500万人ほども減る時代でした。

経済学では、生産年齢人口(いわゆる働いて稼いでいる人が多い年齢)が増加傾向にあれば経済成長する、とされています。過去30年で日本は1,500万人ものこの世代の人口を失っていたので、経済成長が伸びづらかったことが一発でわかります。ただ、国も政策として「働かずに眠っている人たちを起こそう」として、専業主婦に働きに出てもらう「女性活躍」を打ち出したり、定年を延長して高齢者にも働いてもらおうと「年金支給の年齢を動かす」など様々なことをしてきたわけです。

ところが、2025年からはフェーズが変わります。戦後右肩上がりで伸びていた1と2の、全く同じスピードで真逆のことが起きます。「総人口」も減るし、「生産年齢人口」も減ります。もう、過去30年間で女性も高齢者も就業率はかなり上がってしまったので、「眠っている人たち」もかなり起こし切ってしまいました。だから人材不足が顕在化してきたとも言えます。

これから国・自治体が取れる戦略は絞られてくることが予想されます。

①中核都市以上の自治体に人口を集中させたい

②人口規模1万人以下の自治体は吸収合併で効率化

この中間にある人口5~10万規模の自治体が、吸収合併もしづらい大きさだったり、過去の遺産や産業がわずかに残っていたりで、独自的にまちづくりをしてきた自治体も多いと思っています。

そんな自治体でも、「観光資源」が豊富で、そのためのインフラをすでに築けているところは、まだ高単価な宿ができたり外貨を稼げるチャンスもあるため、人材確保もまだなんとかできるのかもしれません。一方で、観光資源もなく、産業も衰退して、民間企業の経営者の多くが高齢化している自治体は打ち手がないというか。若い人材も流出は止まらなくなり、子育て世代の移住も財源がなく打ち出しにくかったり、何より自治体職員も続々と辞めていたりで、待ったなしの状況にすでになりつつあるようです。

自治体格差の先には何が待っているか

2000年ごろまでは、日本全国どこに住んでも、同じようなインフラに同じようなクオリティの行政サービス、そして同じようなコンビニに、同じような店員サービスが提供できる、世界的に最も成功した社会主義国のような様相だったと思います。でも、2025年現在、もはや地方では人材不足どころか「人材不在」の状況で、組織や仕事をギリギリ維持できているという地域も続発しているものと思われます。

これがあと5年くらい経てば、もうだいぶ破綻がチラチラと目についてくると思います。その後、どうなるのか?

なかなか想像しづらいですが、日本社会そして経済という均衡縮小を上手くかじ取りしながら、若い人材が集中する都市圏で世界と戦える産業振興を行い、生産性高い産業へ人口をシフトさせていく必要がよりリアルになると思います。

ただ、イギリスの産業革命をもたらすイノベーションが地方から生まれたように、日本でもイノベーションが地方を劇的に変える最後の切り札かもしれません。その1つで注目しているのが、長崎県の西海市です。このまちに移住してきた数名の若者たちが立ち上げた会社が、AIやDXで密かに影響力を増しており、近隣の自治体にも飛び火しはじめています。この動き、今後も追いかけていきたいと思います。



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