広告業界で働きながら、まちづくりに関することもボランティアでやっていた延長に、すぐ独立というのがやってきて、かれこれ15年が経ちました。独立当初は「プランナー」という肩書きで、企業の販売促進・マーケティングの支援で商品開発・販促物の企画制作・営業支援・WEBの制作などが主な仕事だったのですが、独立して1年半後に福岡テンジン大学が開校したあたりから、講演で呼ばれることが増えました。
さらにボランティアだったまちづくりが、コミュニケーションやコミュニティデザイン関連で仕事になっていき、中学生・高校生・大学生向けの授業をやることもでてきたあたりから、「企業コミュニケーションと、まちづくりと、教育・人材育成とを掛け合わせたアウトプットをする」ということを決意。
以後、自身の職業を「コミュニケーション・デザイナー」と名付けて、これら掛け合わせた仕事の裾野がさらに広がっていって、今の自分の働き方になっています。そして、これらの仕事の中心にあるのが「対話」というコミュニケーション方法が軸になっています。
組織を変えるエンゲージメント
経産省主催のプロジェクトから発表された2020年の報告書「伊藤レポート」による、「人的資本経営」という言葉が広がり、2023年春から上場企業が有価証券報告書に「人的資本情報開示の義務化」されたことや、昨今の人材不足から来る、企業の「採用力強化」「離職防止」などの向かう先に、『エンゲージメント』が意識されるようになってきました。
もともと、組織経営の研究が盛んで、組織のパフォーマンス向上・生産性向上・人的スキルの向上などが、どのような因子から起こるのか?に、「上司がいかに部下1人1人を観察し、適切なコミュニケーションをしたり、気にかけたり、フィードバックしたり・・・」が重要である、と世界規模で組織を調査している米国ギャラップ社は発表していて、「そんなマネージャー(上司)がいるチームのメンバーは、エンゲージメントが高い」ということは、2010年代初頭から、翻訳されたビジネス書で見つけていて、講演でも何度も引用させてもらっていました。
『エンゲージメント』を高めるために、組織内のコミュニケーションの量と質をよりよくする必要がほぼ必須になるのですが、そこに必要なのがまさに「対話」。
エンゲージメント向上には対話が必須
ここ5年ほどで、3社ほど継続して経営陣をサポートさせていただく仕事をしていて、いずれもこの『エンゲージメント』についての話をしたりしてきました。もちろん、すぐに取り入れようと研修をしてくれた経営者もいれば、重要性はわかっていながらも、まだその段階にないと、少しずつ準備に動いている経営陣の方もいたり。ちなみに、すぐに取り入れた会社は、その後数年間の売上の伸び率が最高値になったりして、対話型研修の効果を実感した良い事例に。
3社のうちの1社は、コロナ禍をキッカケに非常に落胆されていた経営者の方が、だんだんと元気になられる過程で学習意欲が向上し、「社内で対話をやってみましょう!」と経営者自らファシリテーターとなり、少しずつ社内の空気を変えていこうとされる方も現れました。
冒頭の模造紙とポストイットは、60代中盤となったその経営者が、年に1度の大きなイベントを終えたあと、社員の皆さんと「ふりかえり」を行ってまとめた成果物の写真です。この会社、何がすごいって70代を越える社員が半数!それでいて、コロナ禍前は「上意下達」の昭和的なスタイルだったため、社員は「自分の意見は言ってはいけない」と思い込んでいて、「新しい企画の提案」など1度もなかったというくらいの会社。
ところが、経営者の「社内で対話をやってみましょう!」と自ら少しずつ変わられ、毎月問答しながらコーチングを行い、そして自分も社員の皆さんと「経営理念や会社のあり方」についての対話のファシリテーションをさせていただいたら・・・。
「こういうこと、やってみませんか」という社員から企画の提案が起こり、それが社内プロジェクトとして全員を巻き込み、今では全社的な年に1度のイベントになっていったのでした。
地域も対話で変わる
毎年、北九州市の生涯学習センターが主催する「地域力アップセミナー」で、ファシリテーション入門の講座を担当しているのですが、とは言え地域づくり・まちづくりになぜ対話?と思っている方々もまだまだ多いのも事実。地域づくり・まちづくりを担当する自治体職員も、3年ほどで異動でやってくるため、なぜ対話?と思っている方もけっこういます。
でも、仕事として地域づくり・まちづくりを行っている人たちにとっては「対話」は必須ツール。
なぜギャップが生まれるのか?それは、組織を変える対話でも、実は浸透には時間がかかります。10~30人規模の会社でも、週5日顔を合わせるような関係性の組織でも、対話を取り入れ浸透させていくのは時間がかかります。浸透しはじめてから、様々な変化が起き始めるため、「効果を実感する」のはさらに時間がかかります。(個人的には、上記小規模の組織でも1~2年くらい)。
ましてやこれが地域になると、毎日顔を合わせるわけでもない、対話する機会もそんなにあるわけでもない、だから余計に時間がかかるわけです。よって効果はさらに見えにくくなり、3年くらいしか担当しない自治体職員には「対話の効果や意味」が腹落ちするところまでは至らないまま異動となる方も、きっと多いように思います。
でも・・・
地域で蓄積された対話は重層的に蓄積され、点と点が少しずつ広がり、あるとき「面」となって現れるのです。それを実践しているのが、福岡県福津市の、合併前の津屋崎町のエリアでまちづくりをされている山口覚さん。今では福津市の中学校で、地域の人と中学生とが対話をする取り組みがあったり、様々な対話の場が設けられるようになったことで、福津市は人口が増えているだけでなく、よりよい移住者も集まっている印象です。
対話から生まれたアイデアを祭りに取り入れた地域
2014年に、福岡市西区の元岡小学校校区の元岡商工会から相談がきました。「毎年、秋にやっている豊年まつりの、実行委員会の研修をお願いしたい。テーマは、祭りとまちづくりで」と。いろいろヒアリングした結果、持ち込んだのは「対話」でした。
祭りの実行委員の方々に、講演だけしてもあまり効果はないと思ったのと、祭りの企画や準備が始まる最初の顔合わせでもあるとのことだったので、「相互理解」「みんなで同じ方向を向くことを意識する」「何のために祭りをやるのかを共通認識する」、そんなことを研修の目的にした対話のプログラムをファシリテーションしました。以後、2018年まで5年間、毎年研修を担当して対話型のプログラムを行ってきました。
そしたら・・・
その対話から生まれたアイデアを、地域の様々なネットワークを活用し、2年後に「まつりに新しい地域の名物となる、音頭(曲と踊り)」が実装されたことに加え、さらに翌年には「小学校の運動会で、小学生たちだけでなく、保護者や地域の人も一緒になって踊れる音頭として運動会の定番メニューに」なったそう。すごい!!
ということでコロナ禍も終わり、久々に今年連絡が来て、実行委員会の研修を再び行うことになりました!今月末の研修をどのような対話型研修にしようか、現在鋭意プランニング中です。