福岡の街全体がキャンパスであり、誰もが生徒、誰もが先生になれる、それが福岡テンジン大学です。というコンセプトで2010年に開校した福岡テンジン大学の学長をしておきながら、この「誰もが生徒、誰もが先生」の新しい形を垣間見たかもしれません。
本物の大学の講義に現役中学生が登壇
福岡のとある私立大学の商学部で、毎週90分×15回の「ビジネス入門」という講義を持っています。成績まで付けなければいけない非常勤講師です。ビジネス畑一筋でもなければ、講師業一筋でもないんですが、必修科目を持たされており、履修者が100名を超えています。
ビジネスの「入門」なので「雇われうる力(エンプロイアビリティ)を身に着ける」を1つの軸として、さらにこの数年後も予測不可能な社会の「10年後、仕事で自分を活かせる自分になる」ための基礎を教える、とシラバスに明記しました。
で、いったいどんな授業をやっているかというと
「テクノロジーの進歩・人口動態で産業や需要のある仕事が変わること」
「お金に変わる信用や価値となる資源(経営資源)」
「マーケット感覚をどう養うか」
「自分を知るにはどうしたら良いか」
「コミュニケーションを学ぶには」
などです。
この15回のうち5回はゲストを呼んで、福岡で働いている多様な業種の人に、自身の仕事内容・仕事観・人生観・キャリアを語ってもらいます。
さらにすべての授業の最後にレポート提出を義務付け。これが成績にも反映されます。で、5回目のゲストが終わったその日、Facebookのタイムラインに「もっと人前で話す機会をつくりたい」という中学生が。最初は、福岡テンジン大学の先生としてイメージしたんですが、「ん?まてよ、中井けんとくんなら、ビジネス入門での登壇の方が相乗効果ありそう」と閃きました。
それが実現したのが本日2018年12月6日(木)。本来は義務教育課程でありながら「学校に行かない」という選択をし、普段は興味のある講演会にいったり読書したり、スタディサプリで自己学習しているという、中井けんとくんが大学の講義で登壇するという日になりました。
中井けんとくんとは
少し前に、「見てる、知ってる、考えてる」という著書を出し、帯にあの脳科学者の茂木健一郎さんのコメントがある中島芭旺(ばお)くんという、現在小学校高学年の男子の存在を知り、書籍を購入しました。中井けんとくんは、小学校時代より不登校になっていたものの中島芭旺くんの行動や著書にも影響を受け、「自分のやりたいこと、好きなことをやろう」と行動を起こしたそうです。
そして実現させたのが、こどもが主催、こどもが出店、スタッフもこども、全員こどもによる「こどもばんぱく」というイベント。2018年の夏に、資金調達でクラウドファンディングも行い、中井けんとくんに共感した多くの大人たちのSNSシェアの力もあり、イベント当日には多くのメディアと、多くの来場者(日本中、さらに韓国や台湾からも!)があったそうです。
参考:こどもばんぱくのクラウドファンディング
さらに、障害をもっていた中井けんとくんは、五体不満足の乙武さんにも「会いたい!」と思い、SNSでアタック、乙武さんの講演会を福岡で開催することにチャレンジします。同じくクラウドファンディングで資金調達し、乙武さんを呼んだ講演会を実現させました。
中学生の登壇に衝撃が走った大学生たちのレポート
5回のゲストが終わり、本日からまた前の授業のスタイルか、と思っていた大学生たちに「え?中学生?」「しゃべれんの?」「バカにしてんの?」というポカーンとした顔が、中井けんとくんを紹介したときに並んでました。
さらに、どんなゲストが来ようがやる気を見せない学生、寝る学生はいるものですが、今日は「まさかの自分より年下、さらに10歳近く下の子が登壇してる」というありえないシチュエーションだからか、完全に色メガネがかかった大学生たち。寝る大学生がほぼおらず、みんな姿勢よく話を聞いていたのが本当に印象的でした。
30分近くしゃべってもらった後、岩永からもいろんな質問を投げかけて答えてもらい、また大学生たちからもスマホで質問を投稿してもらい、その場でいくつか拾って、中井けんとくんに回答してもらいました。
最後に、ビジネス入門では恒例のレポート。今日のお題は
『ビジネス入門のこれまでをふりかえり「なぜ、けんとくんをゲストとして話をしてもらったのか?」「どのようなことを、感じとってもらいたいと思ったのか?」授業の意図を自分の意見でまとめよ。』
どんなレポートがあがってきたのか、一部紹介します。
なぜ、けんと君がゲストだったのか。それは彼の持つ信念や、普通に義務教育を終え大学に入った私達からは出にくいであろう意見を聞くことにより、改めて自分にとっての働くことに対するものや、人生観の根っこにある部分を見つめるためだったのではないかと感じています。 正直、自分が今まで親に言われてきたこと、また自分が考えてきたこととはかなり違ったものばかりが彼の口から飛び出してくるので戸惑いが大きかったです。しかし、そういう意見を聞き、考えることこそ、自分を知るということなんだなと思いました。貴重な体験でした。
私が思う授業の意図とは価値観は人によって異なり、人と違うことが必ずしも間違いではないと言う事です。今回のけんと君の話では不登校で学校に行かないことで様々な出会いがあり、趣味でイベントを開いているとのでした。本人ではなく他の人からこの話を聞いていたならば私は否定的だったと思うのですが、実際にけんと君を目の前にして話を聞くと当たり前ではない価値観が到底間違いだとは思えませんでした。なので先生は実際に聞かなければわからない他の人の価値観の在り方や、生徒に移りゆくこの世の中で広い視野を持ってもらうためにこの授業を行ったのではないかと考えました。少なくとも私はこの授業を受ける前よりはるかに広い視野を持てるようになりました。
けんと君の話を聴いていると自分は何もなく何も出来ないといったネガティブな考えが消えてやれば何でも出来るのではないかと感じました。13歳が主催のイベントが近くであったのにそんな面白そうなものの情報すら知らなかったなんて自分のアンテナの鈍さに驚愕しました。こどもじゃないから参加は出来なかったかもしれないがそもそも知らなかったので情報が大事だと感じました。
自分が大人になって今の子たちが社会人として上がってきたときにすぐに自分たちの世代なんて追い越されるんじゃないかと恐怖を覚えました。DJ社長とか若い社長が最近になって有名になってきて、自分も何かビジネスとかやって稼いでみたいなー、でもどうやるかわからないしなーというところで止まっているのに今の子たちはすでにビジネスを始めていて講演会にいってつながりを増やしたり信用を得たりして人脈を増やしているなんてとても驚きだし、すでに置いていかれているような気分になりました。自分たちにはなかなか行動できないことをスラスラと行動して実現していることは、成功している人たちの共通点じゃないかなと思いました。
教育とはなにか?を改めて考えるキッカケ
今回、僕をこのビジネス入門の非常勤講師にと推挙してくださった、商学部の学部長にも事前に「中学生が登壇します」と伝えていました。今日の様子を報告すると「何を教えるか」よりも「誰とふれさせるか」の方が、テコの原理が働くのか・・・教育とはなにかを考えさせられる・・・と。
このやりとりで、昨年度も同じビジネス入門を受け持っていて、ゲストに糸島シェアハウスの狩猟女子:畠山千春ちゃんが登壇したときが最も大学生たちの食いつきが良かったことを思い出しました。
共通点は、「普段会えない人、ビジネスとは遠そうな人が、目の前で自分たちに語っている」というギャップ。このギャップに価値があると考えると、普段より接している「学校の先生」は価値が低いことになります。どおりで大学生たち、先生の講義では寝てしまうのか・・・。
そして改めて、僕が中井けんとくんを登壇させた意図以上に、大学生たちの反応とレポートに、自分自身がいろいろ学ばされる結果になりました。想像以上の副産物です。
で、正解(レポートで聞いた意図)は何かって?
そこまで深く考えられてなかったです。細かく言うと、大学生たちの心に深く浸透し、価値観が広がったり、入ってきた中井けんとくんの言葉から考えが芽生えたり、それを誰かに話したくなったり、という心揺さぶった先の「言語化」が起きることを目的にして(イメージして)、中井けんとくんをゲストに呼びたい!と思ったので、これをレポートで当てた大学生は一人もいませんでしたけど(笑)
実際、それを問うたのに、正解かどうかは関係なく、どんなところに心動かされ、どんなことを考えたのか?の言語化の部分を採点してますけどね!
参考記事