DIY不動産

DIYリノベ~賃貸不動産の持続可能なビジネスモデル~

2018年5月よりスペースRデザインという、築古(40年以上のビル)をメインに、コミュニティをつくり、入居者とともにDIYリノベーションをして部屋の価値、そしてビルの価値を高める不動産会社の社員になりました。
(写真はスペースRデザインのHくんのDIYリノベした部屋)

 

社員といっても、通勤を基本的にはしなくて良い社員。そして僕は不動産業界未経験。

 

そもそもなぜ僕のような“コミュニケーションをデザインする”って言ってる人が、この会社よりお誘いを受けたのか?が、DIYリノベーションで賃貸不動産業をやるこの会社のビジネスモデルを理解するのに、近い道のような気がします。

 

人と人をつなぐ延長に人と不動産をつなぐ

スペースRデザインの代表的物件はなんと言っても“冷泉荘”(「れいぜんそう」と読みます)。戦後の博多に誕生し、築60年を迎えたビンテージなビル。ここはなんと2012年に「福岡市都市景観賞」も受賞。それは建物がデザイン的なわけでなく、そこに居を構え、日常的に人が行き交い、商いが行われている「景観」が評価されたからなんです。

 

そう、建物のハードではなくソフトが評価された。

参照:冷泉荘/リノベーションミュージアム冷泉荘

 

普通、不動産というとどうしてもハード面、いわゆる建物に目が行ってしまう。その形・色・まわりの景観とのマッチング。そして中身も、空間としてどれだけオシャレか?みたいな視点に目がいきがちですよね。

 

日本全国見渡しても「新築マンション」なんて、ほぼ100%そうじゃないでしょうか。

 

では、このスペースRデザインが行っていることは?

 

それは冷泉荘が築40年を迎えた頃に、物件を引き継いだオーナーでもあった吉原さんが、思考錯誤した結果たどりついた一つの方程式。その方程式というのが、「築古のビル」「建物の構造やつくりに時代の味がある」「スケルトンから募集を始める」というもの。

 

今、分譲でも賃貸でも「自分の城は自分色に染めたい」というニーズが存在しており、「与えられるもの」では満足できない人たちが増えてきています。そこに、仕事場としても、住居としても「自分でつくる」というDIYによって「部屋をつくっていく」ことができる部屋を設けます。

 

するとどうでしょう、そこに入居した人は「どんどん我が城」をデザインしはじめ、個性的に仕上げていきます。すると、その部屋に訪れた人がどんどんと「DIYできる空間が持つ魅力」に気づき始めます。

 

中には、DIYを手伝うような人まで出てきます。入居者が勝手に、でも自由に、部屋を仕上げていくことが、このビルの価値を高めることになるようです。

 

さらに、賃貸がメインのため、退去したあと「現状復帰」はしないと言います。理由は「そのままの方が個性的で魅力的だから」。すると、なんと家賃を上げることまでできるらしい。冷泉荘の家賃を見てみてください。インターネット上の情報だけでは理解できない家賃設定と常時キャンセル待ちの部屋。

 

でも、このようなDIY型の賃貸不動産は「人の手」によって、なにやら価値が付け加えられていく。そしてその人の手のもとに、繋がりがより強固になったりしていく。ここに着目すると、まだ借りての決まっていない部屋で「壁紙をはがす」や「床をはがす」「天井をはがす」などの体験ワークショップを開催すると、どうやら人が集まってくる。さらにさらに、その部屋やビルに興味を持ち、本当に入居する人まで出てくる。

参照:スペースRデザイン

人はコンテキストやコミュニティを求める

どのような人も、無意識で「この世に生きた意味」を見出そうという想いを抱きます。そこに「社会貢献できているのか?」という視点も入ってきます。

 

このスペースRデザインが手掛ける不動産は、基本的にエレベーターもない築古(40年程度)のビル。そのビルが建設されてから今までをつくってきた営みを、「一緒に解体し、一緒に創造する体験」を提供することで、人と不動産を物語の一部として取り込んでしまう。

 

こうなると、自分の手が加わった建物や部屋の物語は、その続きが気になっていくのです。そのとき、人はコンテキストの一部を担い、コミュニティが形成されていったりするようです。

 

フルリノベは消費型でDIYは生産型

ここでおもしろいのが、ちまたの築古不動産や部屋を、業者がフルリノベして提供しているパターン。リノベーションというとこのパターンが99%ではないでしょうか。

 

このパターンになるとまず、コンテキストはありません。リノベのコンセプトがあったとしても、入居者は「提供された空間・商品の消費者」にしかなれないのです。さらにコミュニティも生まれません。そのビル・部屋から、人の輪みたいなものが広がらないのです。

 

一方で入居者や入居候補者がDIYでリノベーションをしていくと、「創造者」であり、そのビル・部屋が建設時から持つ物語(構造に現れる建築家の思考や、物件をとりまくまわりのあらゆる情報)の続きを「つむぐ」という役割をすることに。なので、もはや「生産者」なのです。

 

この違いは、見事に不動産の価値をも変えてしまう!というのが、スペースRデザインが仕掛けるDIYリノベーションという魔法のようなビジネスなのです。

 

いや、持続可能な賃貸不動産ビジネスと言っても良いのではないでしょうか。

 

僕が“コミュニケーションをデザイン”する仕事として、関わる余白が多いにありそうでしょう?ということで、業界未経験ながら自分の強みも発揮できるDIYリノベーションという賃貸不動産ビジネスに、今後の空き家・空きビル問題を解決するヒントも、地方創生のヒントもあると思う今日この頃です。

 

そんなDIYを論じた場をグラフィックレコードしたときの記事も参考にどうぞ。

 



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